この予算は西川区政3期目を締めくくる予算ということになります。ここ10年から12年の間に、荒川区と区民を取り巻く環境は大きく変わった、と昨年もこの場で申し上げました。経済環境や社会保障、税や保険料などの負担が増え、子育てや教育の問題はより複雑化し、さまざまな問題を抱えて困っている区民が目に見えて増えていることを実感します。地域社会を支えてきた層の体力が弱まり、仕事があり、商売もあり、回っていた地域経済が回らなくなってきた、というのが、2008年のリーマンショックを挟んだこの10年ではないかと思います。
南千住汐入地区や日暮里地区を中心とする若年人口の流入で、一見活気を呈しているかに見える荒川区ですが、こうした影の部分、困難になっている現状をもっと直視すべきです。これまで長く税金を納め、地域社会を支えてきた層が復活できるような底上げ支援が目に見え、実感できるような予算にすべきだったことを、まず申し上げます。
さらに、子どもの貧困、奨学金を返せない若者の困窮化、荒川区の中にも増えている「下流老人」等々、困っている区民や、その区民を助ける活動をお願いしている区民団体などに大きく予算を割くことが日増しに必要な情勢となっていることは誰の目にも明らかな訳ですから、幸福実感以前に、不幸から救えるかが問題だと思います。
このような視点から見ると、来年度予算は、その予算額の大きさに比して、いかにも思い切った底上げ支援策に欠けていることは否めません。将来に向けて荒川区の活力をとり戻す予算とは思えず、危機感を持って反対をいたします。
予算が組まれたいくつかの事業について、意見を申し上げたいと思います。
1.まず、完成間近の荒川2丁目複合施設について
吉村昭文学館は、出身地である日暮里につくるべきで、縁もゆかりもない荒川2丁目に複合化することには反対です。もう何回言ったかしら? 多額の財政を投入する箱モノが今後の荒川区にとって大きな財政負担となることは明らかです。私は現在の内容での施設建設に反対したので、この施設について「ああしてほしい、とか、こうしてほしい」との要望は一切申し上げません。改めて完成間近の荒川2丁目複合施設に反対し、折あらば吉村昭先生の文学館を生誕地・日暮里に移転することを諦めていないことを申し添えます。
2.「地域包括ケアシステム」「地域密着型サービス」について
荒川区はいち早く移行を決めましたが、介護保険破綻の後始末を押し付けるがごとき方針を進んで受け入れる以前に、制度そのものの変革に現場からモノ申すべきでしょう。
昨年は介護報酬が引き下げられ、処遇改善交付金は継続されてもなかなか機能せず、介護労働者の流出は止まらない現状が続きます。これを「介護崩壊」と言わずに何と言うのか。国に振り回され、制度のヒビワレからあちこち漏れてくる水の手当に奔走するより、地方自治体はほかになすべきことがあるはずです。
地域包括システムによって、「地域の病院化」と「居宅の病室化」が進み、低賃金の深夜労働を余儀なくされるヘルパーは人員不足の中で倒れそうです。こんな介護保険に誰がしたのか。高齢化だけを理由にするなら政治の無能です。
「経済財政諮問会議」では「非効率な中小事業所は淘汰すべきだ。特養等の施設の7%利益率は高過ぎる」との発言が堂々とまかり通りました。このような考え方こそが介護保険制度の崩壊に輪をかける元凶だと昨年申し上げましたが、地域密着型サービスなる苦し紛れの対策を地方自治体に押し付けるべきではなく、いかに民間事業者に全てを委ねているとはいえ、現場に最も近いハズの地方自治体は抜本的な対案こそ主張すべきではないですか。
最近、この論争を区長としておりませんが、西川区長は新進党の代議士時代、国会で保険で賄う現行制度には党として反対をなさった。当然、当時、新進党であった公明党の皆さんも、党として反対をされた経過があります。私は当時、国会への陳情活動で新進党の担当でしたので、浜四津敏子さんや大野百合子さんとすっかり意気投合し、意見が一致したことを思い出します。破綻した制度を維持しようとあがき、取り繕うのではなく、きっぱりと税でまかなう制度に転換すべきと申し上げます。
3.区内産業、中小商工業について
区内中小企業、地場産業の苦境は、依然変わっていません。まるで、アベノミクスがトリクルダウンしないことの証明のようです。
中小企業支援センター設置による支援の強化、拠点となる商店街で「滞在型商店街」を実行することなど、かねてから元気クラブが提案した施策を急ぎ実行することを求めます。
4.荒川区の子育て支援事業について
先日ネットから話題となった「保育園落ちた。日本(にっぽん)死ね」は若い親の悔しい気持ちを非常にストレートに表したものでした。「私、会社辞めなきゃならないじゃないか!私、活躍できないじゃないか!」という叫びは、保育園に入れなければ仕事をなくす、追い詰められた声です。「暴言や不倫の国会議員をみつくろって首にし、国会議員を減らして保育園建てろよ!」とはよく言ったものです。きわめて具体的な怒りに満ちた提案だと思います。こういう元気な人たちに総活躍してもらわないと、もったいないです。
昨年、元気クラブが会派として開催した、「荒川区の子育て支援事業に関する広聴会」では、母親がうつ病などの精神疾患になるケースが増えていること、保育園入所など相談を受け止める地域の体制づくりが切実に必要なこと、また「保活」という言葉があるくらいに保育園への入園競争が激化し、情報を持っている人と持っていない人の格差があり、ここで「勝敗」が決まる、と言われているのが現状だが、こんなことで良いのか…など生々しい地域の課題が出された、と昨年の予算反対討論で紹介いたしましたが、聞いてない新人議員もいらっしゃるので、もう一回言っておきますね。
区の子育て支援策は果たしてこうした現状に追いついているのか、かゆい所どころか痛い所に手が届いているのか…現行の施策の妥当性や助成金のあり方などに再検討が必要です。
ひとり親家庭や貧困家庭への支援は待ったなしです。地域のきめ細かな子育て支援事業が急務ですが、増額しても、まだ予算は少ない。子育て支援部長のおっしゃる「行き場のない善意」の活用は否定しませんが、熱意に頼って専門家にただ働きさせるな、と言いたい。子育て支援に限らず、高齢者、多様な障碍者の支援についても、汗を流して支援に取り組んでいる区民団体と同じ視線に立ち、自由度の高い予算を組んで支援していただくことを要望します。
5.今後の再開発事業について
西川区政の今年度まで6年間の普通建設事業費632億円のうち、再開発事業への補助金は実に172億円です。日暮里駅前再開発の3事業には133億が支出されました。
1986年以来、歴代区政が区内11ヶ所の再開発事業に投入してきた補助金は計308億円。ゼネコンは荒川区を舞台に利益を得ましたが、その陰で区民生活は豊かになったとは言えません。西川区政になってからもこの流れは変わりませんでした。日暮里再開発以降は、区民の評価も厳しいものがあります。
私は「三河島南再開発では、投資目的で物件を買う地方在住のオーナーや外国人が見受けられる。国民の血税を何十億も補助金投入して、投資目的で転売する人たちを潤わせるのは主旨が違う」とも申し上げてきました。
昔とちがって、最近は議会でもあからさまな再開発万能論は息をひそめ、推進の意見ばかりではありません。しかし、当局には依然として「財政面から住宅建設を検討する必要性はある」との見解もあります。
予算委員会では、担当部長と副区長から「正と負の両面の評価があることは事実。指摘の事案も一部あるのかもしれない。本来の目的に沿うよう努める」等の答弁がありました。「なぜうまくいかなかったか?」の問に対しては、「地権者の言い分や利害のちがいがあったが、今後は調整していく。再開発の指導機関としての区の責任もある」との答弁がありました。
低金利どころかマイナス金利となった今後は、不動産投資がさらに過熱すると懸念され、当然駅前再開発もその対象になります。
西日暮里再開発計画については、大改修で多額の費用をかけたサンパール荒川のここへの移転について、区民の間に不信感が出ています。「議会の意見を聞く」と言いながら、事業協力者の選定も、設計者の決定も、委員会に経過の報告がないことは納得のいかないことです。
これまでの数々の正と負の総括と情勢の変化を踏まえ、今後、荒川区は「私」でなく「公」の再開発をどうすべきなのか。これまで通りの手法ではなく、転換が必要な時であることを再度申し上げます。
6.職員の採用、育成、人事について
私は地公法改正による条例改正に反対いたしました。技術系、技能系の職員は、現在、地方自治体の現場に欠くことのできない存在となりました。もっとこの価値を評価すべきだと思います。
今回の人事考課、分限の条例明記について、職員課長、管理部長は答弁で「今後も目標の押し付けを行うようなことなく、丁寧な指導、育成に心がけることに変わりない。繰り返し目標が達成できない職員があるとすれば、それは管理職の指導が問われるところだ」と言われ、管理職としての立派な矜持を示されました。
今後、地方公務員のおかれる立場はますます難しくなります。その一例として、可決された「行政不服審査条例」があり、ここで不服申請する「国民等」とは、個人の日本国民のみならず、企業・法人、外国の企業・法人を含む、との規定です。現在でも建築紛争等に見られますが、利害関係の複雑化の中で、地方公務員の持つ処分等の権限により、訴訟を起こされたりすることもままあるかもしれません。
こうした中で地方自治体として大多数の住民の利益に立ち、しっかりとした自主性ある判断を貫く職員を育成し、これを守って頂きたい。強く要望いたします。
最後に、移転が表明された宮の前・女子医大東医療センター問題について
今回、荒川区議会は2度目の反対決議を上げました。引き続き東京都に対し、足立区に都有地を売却しないよう要請すると同時に、いま協議されている地域医療圏の議論の中で、再編に絡んでの対応をしっかり行ってください。そして、必要なベッド数確保をすることは、今後の区民の地域医療を決する大事な備えとなります。
西川区長には、しっかりと反対を貫いていただき、健康部にはさらなる英知を働かせていただくことをお願いします。
討論の最後に、最近「23区格差」という新書版の本を読みました。2011年のデータであることや、掘り下げの足りない点も見られますが、「経済が強烈に収縮する中で、東京一極集中、東京ひとり勝ちが加速している」とし、「多極化する23区に生まれる『格差』」に焦点を当てた点が関心を引きました。さらに、そのひとつ一つの区の中にも格差があるという現実に、私たち荒川区は突き当たっています。
この10年、荒川区は大きく変貌し、地域の盛衰にも町ごとにちがいが出てきました。区民が抱える問題の中にも、さまざまな難しい事情が内在し、地域社会の複雑化を反映しています。来年度予算は残念ながら、このような状況に応えたものとは言い難く、反対をいたします。
なお、日本共産党提案の修正案については、財源として地方消費税交付金に言及したことをもって反対をいたします。消費税増税に反対した会派のご発言とも思えません。
以上をもちまして、あらかわ元気クラブの反対討論といたします。