昨年度予算は、「財政構造改革を一層推進するとともに、区民の幸せを実現するためにさらなる前進を図る予算」と位置付け、「行政改革はもちろん、引き続きすべての事務事業を再検証すること」を掲げ、「福祉や教育、子育て支援、防災・防犯、環境、産業活性化などの重要課題に限られた財源を配分する」との編成方針で策定されています。
実質額806億円、前年比で7.1%の実増となったこの予算は、果たして大多数の区民の幸せのために充分活用されたのか、そして、社会情勢に影響される区民生活や地域経済に機敏に対応できたのか。
3点にわたって、決算の認定に反対の理由を述べたいと思います。
第1に、『好転し、ゆとりが出来てきた区財政を積極的に活用する戦略に乏しかった』という点であります。
この年度は、基金からの繰り入れなどの「特別な財源措置を取らなくても財源不足を出さずに予算が編成できる」ようになって、2年目に当たります。予算編成のたびに何百億もの財源不足の数字を示され、財政危機が叫ばれた数年前と、状況は大きく変わってきました。
その要因として、区当局と議会与党は必ず「たゆまぬ行財政改革」を上げます。確かに、他に類を見ない荒川区の行革路線は23区で群を抜いていると言って良い。昭和58年の「行財政体質改善計画」にはじまり、荒川区は25年間で853人の職員を削減しました。その率は23区平均の3倍に当たる35%。職員は3分の1に減りました。
これで業務が滞りなく行われる訳はなく、非常勤職員と民間委託先の労働者と指定管理者の下で働く労働者がこれにとってかわり、正規職員の3分の1から2.5分の1の給与で同等の仕事を担う非常勤職員を440人も生み出す結果となりました。
しかし、こうしたことが財政好転の真の要因なのでしょうか。
歳入を見ると、特別区税は税制改革によって8%増えて9億6千万円の増、小泉内閣が推進した「三位一体改革」によって所得譲与税は87%増えて5億5千万円の増、さらに特別区財政調整交付金は10.8%増えて36億6千万となりました。東京都市部の地価上昇や大手の法人住民税の税収増がはね返った結果です。
この3年間、けっして所得の高くない勤労者や高齢者の家計に打撃を与える年金保険料の引き上げ、住宅ローンや老年者や配偶者特別控除の廃止、低率減税の廃止と「実質増税」が次々すすめられ、請求書が5倍、7倍になった高齢者家庭も出ました。
つまり、大多数の区民に痛みをともなう増税によって財政が好転した、というのが真相ではないでしょうか。このような社会情勢の変化、格差の拡大の中で、財政をどのように出動するのか、が問われていたのだと思います。
この年度の予算委員会は「荒川区の低価格契約の弊害」について、超党派で多くの議論が行われました。労働基準法違反の賃金が問題となった庁舎の警備委託契約や今年の保育園給食民間委託が落札できなかった問題についても、同様の問題を含んでいます。
西川区長はこの予算委員会で、民間委託などの契約について「適正であり、働くひとたちの立場も擁護でき、中小・小規模企業の競争力を培えるような環境にし、安全性が確保でき、納税者にも納得してもらえるように、この予算委員会での超党派の議論は尊重していく」と答弁されましたが、こうした観点での対応を具体化していただきたいのです。そうでないと「役所の行革は格差社会の拡大に手を貸した」と言われてしまいます。
保育園給食の民間委託、障害者施設への指定管理者導入を行ったが、これで良かったのかという問題も残りました。
苛酷とも言える荒川区の行財政改革が何をもたらしたのか。
財政の堅調化を成果とするばかりでなく、この際、そのマイナス面や歪みも率直に検証し、弊害を認め、補うべき所は補い、見直すべきは見直していく勇気が必要な時ではないか、と思いますが、予算の執行を通して、そうした戦略的な判断を感じる事は出来ませんでした。
第2に、普通建設事業費52億円の街づくり費用はこれで良いのか。再開発に対する疑問です。
当時の自治省が「借金をしてでも内需を拡大せよ」と10年間で640兆円の対米公約の消化を地方自治体に求めたとき、確かに荒川区は豪華庁舎も建設せず、保養所もつくりませんでした。全国の自治体の財政悪化の背景にはこの問題があり、23区のうち財政状況が悪化した区は、みんなこれをやっていますから、その点では賢明だったと言えるでしょう。
しかし、荒川区は統廃合のために学校を建設し、特養ホームを建設し、そして駅という駅で再開発事業をやってきた。莫大な財政を投入する再開発事業は果たして大多数の区民の利益につながっているのか。再開発で工事中の日暮里駅周辺を眺めて、私は最近つくづくそう思います。
再開発事業に対する公の補助金は、国庫支出金と荒川区の一般財源から支出されます。しかし、区の一般財源からの支出は、都市計画交付金と財調交付金で賄われますから、荒川区単独の財政負担はゼロです。これが、財政事情が厳しいにもかかわらず、荒川区が駅前再開発を乱発できた理由です。大手ゼネコンや住宅建設業者にとって荒川区は格好のビジネスの舞台となったかもしれませんが、区民の利益という点では疑問が残ります。
第3に、産業経済費の執行で消極性が目立った、という問題です。
基本構想には「活力ある地域経済づくり」の中に「意欲ある商店街の振興や観光資源の活用で商業の活性化をはかる」と書いてあります。
荒川区の魅力のひとつとして商店街を位置付け、また高齢者や子育て世代にとって将来も必要だ、とするなら11も新規事業を設定して、この執行状況はどうなのでしょうか。
それとも、基本構想そのものでの位置付けが違うのでしょうか。
観光振興費は執行率51.9%、事業革新支援事業費は60%、産学官連携支援は75%で、こうした決算では反対せざるを得ません。
私は、この年度を費やして検討が行われ、今年3月に策定・議決された新たな荒川区基本構想にあえて退席させて頂きました。それは、財政も好転してきた新たな情勢と、国の度重なる地方や区民生活への負担増という情勢の下で、荒川区の将来像をどう描くのかが鮮明でないと考えたからです。
私は、好転した財政を国の社会保障切り下げの補填に使うことには賛成できません。国に対して政策転換を求め、貴重な財政は真に荒川区の将来につながる投資に向けるべきと考えます。そうした新たな戦略が必要な時ではないでしょうか。
以上申し上げて、決算の認定に反対の討論と致します。