河内ひとみのあらかわ日和

2014年11月25日 2014年11月24日

格差拡大に歯止めをかけ、力の強いものを規制する政策が必要。
荒川区は区民のために対抗策を取れるのか。

 蒸し暑い梅雨が続きますが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
 4月の区議会選挙では、皆さんに暖かいご支援をいただき、本当にありがとうございました。選挙後のご挨拶もそこそこに、5月の連休明けからマンション紛争と街づくり問題に取り組む日々が続いています。
 荒川区基本構想は『幸福実感都市』をめざしていますが、区民が幸福を実感できないことのひとつに、すすむ格差の拡大があります。私たちが暮らす地域でも「格差の拡大」が目立ち、「力の強いものの権利」ばかりが大手を振ってまかり通るようになってきました。
 これは、90年代の初めから続く規制緩和や市場競争一辺倒の政策に原因があります。1989年からの日米構造協議でアメリカに「日本の慣行を変えよ!」と迫られ、財界の主導で進められた政治が、力の強いものをより富ませ、力の弱いものをより貧しくする苛酷な結果を生み、日本の社会には様々な歪みが生じてきました。
 誰のためにあらゆる規制が取り払われ、法律が変えられてきたのか。それは荒川区民にとって幸せをもたらしたのか。よ~く考えなければなりません。こうした問題に、基礎的自治体である荒川区はどう歯止めをかけるのでしょうか。マンション紛争に悩みながら、住民に一番身近な荒川区が正面から挑む時だと痛切に感じて本会議で質問しました。
 参院選も間近。でも二大政党のどちらにもこの問題は解決できそうにありません。地方議員の頑張り時です。

《街づくり》

増えるマンション紛争。
限界が生じた区の現行ルールをどう変えるか?

●ここ数年、荒川区では工場の閉鎖や転廃業、相続などによる土地の売却が増え、購入した業者が、狭い土地に建築基準法ギリギリ一杯のボリュームで集合住宅を建てようとするため、近隣の住民との間に頻繁に紛争がおきるようになりました。「区の要綱は条例じゃないから、従う必要はない」と公然と指導に従わない業者も現れ、区の現行ルールには限界が生じてきました。
 この問題は単なる近隣紛争の域を超え、規制緩和がすすむ中での区の街づくり政策を問う問題になってきました。そこで『中高層建築物と街づくりの現行ルール見直しと改定』について、区の考えを聞きました。

『都市計画マスタープラン』と高さ制限、用途地域の活用は?
●まず、どのような問題意識で『都市計画マスタープラン』の改定に取り組むのか。そして、新宿区が制定した『高度制限地区条例』や、区が「高層建築物対策に有効」と説明してきた『特別用途地域』『地区計画』をどう活用するのか、聞きました。
 こうした制度は区民に知られていません。区は支援制度をつくり、専門家として住民の中に入って相談に乗り、積極的に街づくりを助けてほしいと提案しました。

★東日暮里1・2丁目のケース★
この町会では3ヶ所の高層マンション紛争がおきている。この地域にはもともと高層の建築物がほとんどなかったが、最近では「工場や倉庫の跡地を外部の業者が買う『狙い目』の地域」とまで言われている。長くこの土地に暮らす住民にとっては迷惑この上ない話だ。「建築基準法上は合法」であっても、効率一辺倒で自分の家の窓と50センチ隣合わせにピッタリと高層な建物が建ち、非常階段が作られて平気な人はいない。窓は開けられず、採光は遮られて日陰となる生活を「仕方ない」の一言で済ませられるだろうか。きわめて理不尽である。

【西川区長 答弁要旨】
○『都市計画マスタープラン』は、策定から10年を経て、区の6割を占める密集市街地の防災性向上や生活環境を守る視点からの土地利用とマンション建設における高さ制限のあり方など、様々な課題を抱えており、新たな策定にあたっては、基本構想の将来像である『幸福実感都市』を街づくりの面から実現するため、下町の良さを残しつつ、将来にわたり全ての区民が「住んでいて良かった」と思えるような都市整備の総合的な指針をしっかりと示したい。

【倉門 都市整備部長答弁】
○高度制限や特別用途地域の指定については、既存建物との整合、私有財産の制限、経済活動への影響、住民合意の形成など、様々な問題を解決する必要があるので、都市計画マスタープランの中で慎重に検討したい。
○地区計画など、区民が自ら策定できる制度については、具体的な進め方や専門家の派遣などの支援制度を前向きに検討する。

包括的な『まちづくり条例』を提案する。
●業者から「従う必要はない」と言われた『荒川区市街地整備指導要綱』の条例化については、前日に西川区長から「9月議会で実施する」との答弁がありましたので、私は、荒川区としての理念を掲げた包括的な条例(仮称)『生活環境と地域コミュニティを守るまちづくり条例』を提案しました。
 建築基準法の容積率緩和で、より大規模な建造物が可能となり、行政手続法によって、それまで要綱指導をしてきた区の裁量権が失われ、産業構造の変化で用途地域の見直しが将来の課題となる中で、区民のために職員の英知を結集して挑戦してほしいところです。

【倉門都市整備部長 答弁】
○区民の生活環境の保全や向上及び地域コミュニティの維持や醸成は、まちづくりの根幹をなすもの。それを基本理念とした、規制・誘導・支援などを含めた包括的なまちづくり条例の制定は今後の課題である。現行の制度や将来必要となる制度等も勘案しながら、都市計画マスタープラン策定の中で慎重に検討する。

『要綱違反』の現場をどうするのか。
●一方、9月の条例制定によっても遡及適用がされない2ヶ所の『要綱違反』の現場について、私は本当にこのままで良いのだろうか、と思います。
 89戸という要綱を3倍も上回るワンルームマンションがそのまま作られ、「条例が間に合わなかった」で良いのでしょうか。また『利殖用マンション』の管理問題に区としてどう取り組むのでしょうか。着工はしたものの、現在も住民と業者との話し合いが続けられる2ヶ所の現場に、区としてでき得る最善の方策を取ることが、区民の信頼を裏切らない道だと思います。

★東日暮里3丁目南町会のケース★
この現場は、区立公園の向かい、高齢者施設の隣、そして学校の真裏という静かな環境の中にある。突然の土地売却で89戸の大規模ワンルームマンション計画が持ち上がった。現在、町会を挙げて反対運動を展開中。今回、要綱違反という事態を受けて条例ができることになったが、肝心のこの現場には適用されない。

★西日暮里6丁目のケース★
メモリアル千代田裏に計画されている10階建てワンルームマンション。戸数が要綱スレスレの29戸、居住面積は基準以下の20平米。『利殖用マンション』と銘打ち、購入者と居住者が全く別。近隣住民は「隣人が誰だか判らない」強い不安と地域コミュニティの危機を感じている。年内に管理方法や居住者に関する協定を結ぶと業者が約束し、工事協定のみ締結して19日に工事が着工した。

土地の売買情報の提供と把握を。
ワンルームマンションを『下町と共生する若者向け住宅』に。
●2件の事例を踏まえて、ふたつの提案をし、区の見解を聞きました。
1.今回のケースは、何十年も隣人だった事業者が経営不振や相続の事情などから、地域には内緒で突然土地を売却してしまったことに端を発しています。こうした状況を未然に防ぐため、区内の土地売買についてアンテナを張り、区外の業者による一方的な開発を防止できないか。「ふれあい館の土地を探しています」など必要な土地の情報を区報に掲載したり、「土地を売却したい方はご相談下さい」という呼びかけをしたらどうでしょうか。
2.『地域と共生するワンルームマンション』を区として奨励し、借り上げ住宅や家賃補助を通して、地域と付き合って暮らしたい若者に入居してもらうという方策は取れないものでしょうか。「お祭りや町会の行事に参加します」とか「レスキュー隊や町会の手伝いをします」という契約を荒川区と交わす若者に住まいを優遇し、ご近所の『お節介なオジサンやオバサン』に可愛がってもらう。「そういうライフスタイルも楽しいよ!」と呼びかけてはいかがでしょうか。

【倉門都市整備部長 答弁】

1.土地の売買情報については、かつてバブルの時期(注:昭和62年=1987年以降)に、地価の高騰を防ぐため監視区域を定めていたが、平成7年に都内全域で指定が解除されたため、区での把握が出来なくなった。また、区民からの土地売却の相談や、区が必要な用地を確保するための情報提供については、前向きに検討していく。
2.これまでも指導要綱の中で、町会への加入などをお願いしているが、家賃補助等と合わせ、地域活動などに参加することを条件づけることは、なかなか難しい面がある。区としては、若者が地域コミュニティに参加することは地域の活性化に寄与すると考えているので、どのような対策が可能か、今年度改定する『住宅マスタープラン』の中で検討する。

《商店街》

地域商店街は将来も区民にとって必要。
3つの提案をしました。

●区内では、大型スーパーの進出に押されて地域商店街の衰退が続いています。大型店立地規制の考え方は23区のような都会にも通用します。熊野前のホームピックやユ・タカラヤのように、既存商店街の外れや離れた所に大型店を作ってはダメ。おぐぎんざのトミエストア、三ノ輪のヨーカ堂や仲町のセイフーならOK。つまり「国道沿いに大型店が建って中心市街地が寂れた」という地方都市の問題と同じ事です。ここを理解しないと、いつまで経っても荒川区の条例はできません。
●また、将来の消費者である子育て世帯やファミリー層を商店街に呼び戻す必要があります。今回は、商店街の空店舗を利用した『親子カフェ』を提案します。荒川区の商店街には、焼き鳥、コロッケ、おでんや、おにぎり、パンなど色んな美味しい食べ物が売られています。買い物する親子が、ちょっと立ち寄って一緒に座り、飲み物を注文して、商店街で買った食べ物を持ち込みで食べられる。友だち同士なら、なお楽しい。こんな『親子カフェ』はいかがでしょうか。
●〈布の街・日暮里繊維街〉から三河島駅周辺のエスニックな飲食店へと回遊する『日暮里-三河島回遊マップ』を作成してほしい。商店街の協力を得て、マップを配布する場所も設置してほしいと思いますが?

【高野産業経済部長 答弁要旨】
○立地場所を制限・誘導する条例について、内容を比較分析し、必要に応じて現地調査を行い、大店立地法の立法趣旨に照らした立地規制の妥当性について検討を深めたい。
○空店舗を活用した施設整備は、子育て世代を地域商店街に呼び戻す有効な方策である。今年度からの『商店街ルネッサンス』要綱に、子育て世代向けのサービス施設、高齢者に配慮したサービス施設の設置など、商店街が様々な工夫をこらし、にぎわいを取り戻すための空店舗有効活用策を規定する。
○日暮里繊維街、三河島駅周辺の特徴のある2つの商業集積は、区にとっても重要な地域であり、観光振興の面からも効果的な活性化策を講じる必要がある。回遊を促進するため、マップの作成に取り組み、案内スポットの設置を繊維街に協力要請する。

《医療・福祉》

医療と福祉に拡がる格差。
現行制度を見直さないと命に関わる。

●コムスンの不正事件は、私たちの予測通り、「福祉をビジネスにするとどうなるか」を示したもので、介護保険制度破綻の象徴的できごとです。区は基礎的自治体として、また保険者として、税による制度へ抜本的な見直しを行うよう、国に要望すべきです。
●また、国は昨年成立した医療制度改革関連法にもとづき、介護療養病床の老人保健施設等への転換などをすすめ、介護を受けている人や入院患者、医療機関や医療保険者に大きな不安を引き起こしています。「医療費の抑制」だけを目的とした医療制度改革がこのまますすめられれば、国民の命に関わる事態になります。
●介護保険制度は破綻し、医療制度改革は大多数の国民に不利益を生じさせ、格差を拡大させています。障害者自立支援法は法の施行後も見直しを求める声が大きくなっています。
 私たち全国の超党派の地方議員でつくる『全国地方議員交流会』は、8月下旬に東京で会合を開き、その際、厚生労働省に出向いて『社会保障構造改革をやめ、制度の抜本的改正を求める要望書』を提出する予定です。地方自治体の長として、医療保険と介護保険の保険者として、西川区長にも、是非ご協力をお願いします。

【金田 福祉部長答弁】
○荒川区内のコムスンの介護サービスを利用している区民は、平成19年5月実績で、訪問介護、居宅介護支援事業等を中心に約300名。コムスンのような民間事業者が不正を行ったことは、介護保険制度上大きな問題であると認識している。区としては、介護事業者に対する指導を一層強化し、介護保険制度の適正な運用に努める。国の制度改革に伴って発生するさまざまな問題点については、必要に応じて国や都に対し、強く要望を行っていく。

【ゆうこのひとりごと】

●6月20日の建築基準法改正を前にした駆け込み着工が全国で起こる中、東日暮里3南町会の工事現場では、6月14日の早朝5時半に重機を乗せた大型車両が現場に搬入された。6時前、区役所の警備室に「私たちはただ泣き寝入りするしかないんでしょうか!」と現地から電話があったと聞いた。区に助けを求める区民の悲痛な叫びだ。要綱違反で踏みにじられる区民の痛み、悲しみを痛切に感じた。
●西川区長は「民間活力導入や規制緩和によって生じた問題」として、耐震偽装問題、介護保険でのコムスン問題、ワーキングプアの問題を上げ、「市場原理が悪しき方向に流れるのを防ぐことや、そのことにより困難な状況にある方を支援することが行政の責務と考えている」との考えを表明した。
●社会的に弱い立場にある区民に対し、これ以上困窮がすすまないよう手を差し延べ、支援することは行政の大切な役割だ。しかし、力の弱いものを助けるだけでなく、規制緩和や市場原理万能主義の恩恵をこうむって我が物顔にふるまう者に対して、地域と区民を守るために必要な規制を行い、「悪しき方向に流れる」のを防がなければ、この状況は変えられない。
●国の政策に対する地方の悩みは深い。『痛み』は『怒り』に変わってきた。超党派の地方議員交流会には全国の『声』が集まるだろう。